とある組織に追われた

ある組織に追われている。
四六時中、わざと僕に気づかせるように尾行をつけてくるのだ。

尾行してくる男はいつも同じ男。ジーンズにTシャツ、スニーカーという軽装。そしてファッションなのだろうか、手首の所に腕輪をはめている。
どこにでもいそうな格好だが、その軽快な服装が「どれだけ逃げても追いかけられるんだぜ」と言うことを雄弁に物語っている。
ただ、実際に行動を起こしてこないところをみると、まだこちらを牽制しているのだろう。だとすれば、牽制している間がチャンスだ。こちらから先手を打たねば。


僕は電車で水戸へ出た。車でもよかったのだが、なぜか電車で行くべきだとこのときは考えていたのだ。

水戸駅は改札を抜け北口へ出た。わざと人の多い通りを選んで歩く。異常気象でこれだけ暑いのに、駅前はいつも通り高校生たちであふれかえっている。そんな中を20分ほど歩き回ると、「じわり」どころではなく汗が噴き出してきた。異常気象のせいばかりではない。夏とはおそらくそういうものだ。

どこまで歩いても男は付いてくる。しかたなく僕はLIVINに入り、目の前にあるハーゲンダッツへ行きバニラアイスを一つ購入した。そして、どこからでも見えるような席へ座り、アイスを食べ始めたその時、後から来た男も釣られるようにアイスを購入した。

今だ。
僕は男の視界から抜け出すとLIVINの裏口からでて、立体駐車場へと向かった。LIVINからの逃げ道はそこしかないが、この状態では、贅沢を言っている場合ではない。後のことは走りながらでも考えればよい。
僕のずいぶん後から、威勢の良い靴音が近づいてくる。僕が居ないことに気づいた男が急いで追ってきているのだ。僕は急いで立体駐車場へ飛び込み、扉の陰に息を潜めて男が来るのをじっと待った。

男の足音はいったん別の方向へ向かったようにも聞こえたが、すぐにこちらへやってきた。足音はどんどん大きくなり、アスファルトの上を歩く足音が、一瞬とぎれ、男は立体駐車場へ入ってきた。

その瞬間だった。僕は近くに転がっていた車止めのブロックで男の頭を思い切りたたき割った。2度、3度と繰り返した。男が完全倒れたのを確認した。

すぐに、男のポケットに何かが入っているのは気がついた。
入っていたのは僕の顔、住所、名前、電話番号、家族の住所が書かれているA4の紙。そして、紙に書かれた指令。「組織に対し、批判的な事を書いていた。処分」

つまり、僕のやったことは手遅れだったわけだ。むしろ、先に気がつくべきだった。ここでこいつを殺したことはきっと数時間中に組織に伝わるだろう。そうすると、組織の人間がさらに僕を追い回す。もう、安全な所なんてどこにもない。水戸の駅前にいる学生たちも、組織の人間じゃないなんて言い切れないのだ。

今更、僕は自分のした事の恐ろしさに気がついた。
おそらく、この強大な組織は警察権力、政治権力にも幅を利かせて居るんだろう。と言うことは、警察に逃げ込んでも、県庁に逃げ込んでも、安全ではない。つまり、この国に僕を助けてくれる人など誰もいないのだ。だからといって、高飛びするような金もない。いや、海外だって安全ではないはずだ。

僕は立体駐車場を出て、そのまま水戸の駅ビルへ向かった。特に理由はない。水戸の街を見納めに見ておきたかったのかもしれない。しかし、そんな願いもむなしく駅ビルではすでに新しい追っ手が僕を待っていた。
もはや組織に抵抗する気も起きなかった。男たちに付いて、駅ビルの4階、職員通用口から裏へ入っていく。裏口を入って、もう一枚扉を開けると、そこは外から見ただけでは信じられないくらいの広い空間があり、組織の本部と思しき施設が作られていた。

おそらく僕はここで殺される。
しかも、ただ殺されるのではない。きっと、ただ苦痛を味わわせるためだけに十分な拷問を受け、その後でひたすらなぶり頃されるのだろう。なぜだ。何で僕が。悪いものを悪いと言っただけではないか。こんな事になるのなら、組織の批判などするんじゃなかった。神様なんぞ居ない。居るならば今すぐこいつらに天罰を与えてくれ。




なんてことを夢で見た。寝汗をびっしょりかいて目が覚めた。
夢落ちで申し訳ないけど、俺、絶対に組織には楯突かないようにするわ。