裁判の傍聴に行ってきた。
裁判の内容は…以前ウチのアパートで起きた殺人事件。
加害者について僕の持っている知識は、レゲエのタオルがいつも干してあったとか、そういう事件には全く関係ない事ばかり。事件については普通の人同様、事件当時のニュースしか情報がない。二股かけてた男が家に乗り込んできた女を刺し殺しちゃった、いわゆる「身勝手な犯行」なんだろうなー、という想像でしか物が言えない。
ところが、裁判を傍聴している中で色々分かってきた。
もちろんだけど、加害者が悪くない訳はない。どんな事があっても人を殺すのはやっぱりよくない事なんだと思う(自信はない)。
でも、死に値するかどうかはともかく、男の方も相当ひどい事をされていたようだ。
事の発端は、加害者の男性が被害者の女性と交際していたところから始まる。
その交際というのは(被害者はもう語る事が出来ないので、加害者の口、および検察側取り調べによれば)、どちらか一方に恋人が出来るまで…という様な、都合の良い交際という約束だったらしい。
後で分かる事だが、そのとき被害者女性には別につきあっている恋人がいた。
そして、加害者の男性は、被害者女性とは別の女性…後に婚約者…と出会う。そして、被害者の女性に別れを告げる。
一旦は被害者女性はそれを受け入れるのだが、次第に態度が変わっていく。
以前、加害者とつきあっていた頃、自分にもつきあっていた恋人がいた。だから、自分ともそういう関係であるべきだ、と。加害者にして見れば寝耳に水だろう。
その後も加害者は何度も何度も別れを切り出す。しかし、その度に「もう少し」とか「一人だと寂しいので相談に乗ってほしい」と言われ、別に恋人がいるにもかかわらず肉体の関係を持ち続けたというのだ。
しかし、加害者の男性は婚約者の女性と同居を始める。それが僕の住んでいたアパートだ。
相も変わらず被害者女性と加害者の関係は続いていたが、この頃から被害者の行動は更にエスカレートしていったらしい。
加害者の会社の近くで様子をうかがっていたり、加害者自宅に友人の車が止まっていれば「別の女を連れ込んでいるのか」と電話してきたり、婚約者の勤務先を突き止めたり、婚約者と加害者の人格を否定する様なメールを送ってきたり…
そしてとうとう、殺人に至った、という訳だ。
結局、殺す側には殺す側の、殺される側には殺される側の理由がある。
多分、だいたいの殺人事件はそうやって起こっているんだと思う。
だから、どれだけ理由があっても殺人という罪は重大なのだ。汲み取るべき情状もあまりにありきたりなのかもしれない。でも僕は、被害者遺族の「全国の被害者遺族に希望を持てる判決を」と言う言葉には無性に腹が立った。不幸はあっただろうけど、あなたたちは全国の殺人事件被害者の代表でも何でもない。
明日、判決は下る。求刑は15年だから、これより少し軽くなるかもしれない。
確かに被害者は帰ってこない。15年が長いか短いか、僕には分からない。でも、検察側が15年の求刑をしたという事は、そういう事だ。
初めて行った法廷はテレビと同じだった。ただ、傍聴席と証言台を区切る木の柵の威圧感はとんでもない。でも、多分そんなに頑丈じゃないんだよね、あれ。それほど大きくもないし…でも、あの柵の向こうには行きたくないと思った。言葉が適当かどうかはともかく、今日は本当に、それだけは収穫だと思う。